甲府戦~超えられなかった壁
ぼやけた空気はまるでピッチへも伝染したかのようだった。キックオフの後どこか拍子抜けしたようにボール回しが拙かった。それは甲府が前線からプレスを掛けたせいで余裕がなかったせいもあるだろう。ただしそんなのは予想できたことだった。甲府はとくかくパスを回させないこと、中盤をコンパクトにすること、そして高い位置でボールを奪い素早く攻めるというのは素人のぼくにでも考えられることなのだった。
サンフレッチェのプレスはどこか甘くボールが奪えない。甲府がスタミナを考えずにガンガン飛ばしてくるのに対して適当にあしらってやろうとでもしてるのだろうか。ボールを取っても前に送れないのだった。そしてその内に右サイドからあっさりクロスを入れられ真ん中でハーフナー・マイクに決められる。またハーフナーかよ。本当にこのチームはいつもいつも同じ選手に決められる。そこがまた歯痒いのだった。
ただしこれにより少し目が覚めた。何とかせねばならない。点を入れなくては。だけどやはりボールはつながらないのだった。そして甲府の攻撃をしのいでも跳ね返したボールは皆甲府の選手のところへ行くのだった。ボールを取っても奪い返される。パスを出してもコースを読まれている。八方ふさがりだ。それなのにこの状況で青山、続いて中島が負傷により交代してしまった。何か魔なる力が働いてるんじゃなかろうか。太陽も影をひそめてそんな予感を与えるのだった。
後半、やはり上手くいかない。青山に代わって入った丸谷はミスを繰り返している。もどかしかった。それでもシュートチャンスがなかった訳ではない。ただそのチャンスをことごとくチュンソンと寿人は外してしまったのである。シュートが入らない。それならばシュートの数を増やすしかない。数撃たないと当たらない、そんな気がしてきたのだった。
ただし交代枠を負傷により2つも使ってしまったことは戦術的な交代をするには不利な状況だった。それなのにミシャはよりによって水本から横竹という同じDF同士の交代という采配をしてしまった。この交代の意図が読めなかった。前半に相手選手との接触で倒れた場面はあったがそのままプレーを続けてたのでそんなことがあったことさえ忘れていた。実はその後頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫により開頭手術をして全治4か月という発表があったがその時そんなことは知る由もないのだった。
ただしこの交代後サンフレッチェの攻撃は活況をていしてきた。度重なる負傷者の出現は不穏な空気を醸し出し太陽は顔を隠していったがそれが一種の緊張感になったのだろうか。波が押し寄せてきたのである。
行ける。甲府のプレスが緩くなってきたせいもあるが攻撃に勢いが出てきた。そしてその流れの時ミキッチのドリブルはとてつもない脅威を相手に与えた。ペナルティエリアに切れ込んだミキッチはディフェンダーに堪らず後ろから倒されたのだった。
「うおおおおっ!」
PKだ。スタンドの観客は立ち上がった。主審もPKのポーズをしている。まだPK決まった訳ではないと冷静な声も聞こえる中、キッカーは寿人であることが分かり余計不安が増すのだった。ただ思いっきり蹴ったボールはGKの読みなど関係なくゴールネットを揺らしたのだった。
同点。やっと追いついた。残り時間は?17分。まだ何とかなる。もう1点。急げ、時間がない。
スタンドは熱を帯びてきた。取れる。絶対に点は取れるぞ。そんな確信めいたものが湧き上がった時、またしてもミキッチにボールが渡った。右サイドからペナルティエリアに侵入する。切り返した。足が掛かり倒された。
「PK!」
誰もがそう叫んだ。だが主審は笛を吹かないし副審も目の前で見ていながら旗を上げなかった。2度も同じ選手でPKを取ることは心情的に躊躇するものがあったのだろうか。仮にあれがPKでないのならミキッチはシュミレーション、もしくは相手に故意にぶつかるオフェンスファールになるのではなかろうか。正直このプレーに関しては先のPKを取られた場面よりもハッキリとPKだと思った。信じられない。あり得ない。真上から見ていたぼくの周りの人は皆この判定に苛立ったのだった。
前掛かりに攻撃をするもあえなく時間切れ。終了の笛が吹かれてしまった。どこか釈然としないものがある。アディショナルタイムも短すぎるんじゃないのかとあらぬところへ不満を口にするのだった。
気付けば天空は鈍い色の雲に覆われていた。まるでぼくらの不満を代弁するかのようだったが、このスタジアムの場合どうもこういう空模様の方が戦う雰囲気になるような気がするのだった。
甲府には勝てなかった。苦手とするチームとして超えるべき壁であったが超えられなかった。決めるべきところでシュートを外しまくったというのも大きいだろう。そして勝てない試合ではなかったという感覚から痛い引き分けだという感覚が残った。そしてぼくはこの後のことを考えると余計心が痛んだ。またあの狭っ苦しい夜行バスに乗って千葉まで帰らなきゃいけないのか。肉体的にも精神的にも苦痛な夜となるのだった。
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お疲れ様でした。甲府戦は試合内容そのものよりも負傷者続出だったということしかないですね。特に水本選手は命に別状はないとは言え、選手生命は大丈夫なのかと心配してしまいます。
自分の広島での観戦での不敗記録が今回も途切れなくて良かったですが、それ以上に気持ちが重くなりました。
投稿: ゆみしん | 2011年5月 8日 (日) 22時49分
>ゆみしんさん
3人全て負傷交代というのはちょっと尋常ではありませんでしたね。
しかも結構重症だったというのが痛いです。
甲府もここまでやってしまったら今後思い切った守備がやりにくくなるんじゃないでしょうか。
投稿: Miles | 2011年5月 9日 (月) 09時57分