サンフレッチェのつながり
「エル・ゴラッソですか?」
机の上に広げられたピンクの新聞が目に入って聞いてみた。
「あ、サッカー好きなんですか。じゃあこれ買ってるんですか?」
「いや、あんまり買わないです。週3回130円使うと結構いっちゃうでしょ。まあ月曜日は買うことがありますけどね」
「ああ、試合速報が載ってますからね」彼はちょっと口調を落としてきた。「サッカーは代表ですか、クラブですか?」
「クラブですね。サンフレッチェ広島を応援してます」
「えっ、サンフレッチェ!随分と通ですね。あっ、広島出身ですか。私は千葉に住んでるのでジェフ千葉を応援してますよ。そういえば佐藤は代表落選残念でしたね」
「ええ、まあ。でも駒野が選ばれただけでもいいですよ。まあ試合には出ないでしょうけど」
「うーん、勿体無いですね。加持はいいけど三都主は・・・ちょっとねえ」
「ハハハ・・・」
ぼくは笑って返した。思わないとこでサッカー好きがいたもんだ。ぼくは仕事場でサッカーの話、とりわけJリーグのチームの話をしたのは初めてだった。基本的に土曜日に仕事を休めない業界なもので試合を観れる機会が限られる。しかも保守的な雰囲気なのでサッカーは受け入れられない感じがあるがこうして好きな人もいるんだという驚きを感じた。ぼくはそれ程職場で口数の多い方ではないのだがどこからともなくサッカー好きということが知られると年配の意地の悪い人には揶揄されたものである。
例えば、日本が優勝した中国のアジアカップなどは優勝した次の日ぼくの顔を見るなり昨日はサッカー観たのかと聞き、観たと答えると俺はあんなもの観ようとも思わないと言われてしまった。別に仕事が終われば他人でしかない人なのでそれ以上何も言わなかったがぼくとしてはこの業界に気の合う人がいないというエピソードを語る一幕であった。中には仕事の付き合いで飲みに行ったりゴルフに行ったりということをしてる人がいる。ぼくには絶対にできないことであった。それなら一人でサッカーを観に行った方がいいしサッカーの練習をしてる方がいい。要はぼくと相容れない人と勤務時間以外でも付き合う気がないということだ。そう、だからぼくは仕事が楽しいと思ったことは一度もなくできることなら関わりたくもないのだ。
それでもこうしてわざわざ『エル・ゴラッソ』まで買ってる人がいた。この業界でも中には気の合う人もいるということだ。そういえば6年前は関東でサンフレッチェを応援してる人なんかいるのかと思ってたもんだ。そういう貴重な存在がいた時には本当に嬉しい。だからこそそういう人とのつながりは大切に思う。仕事も学校も経歴もまるでかかわりがないのにただサンフレッチェを応援しているというだけで付き合ってる。それはぼくがサンフレッチェを応援してなければ決して知り合える人達ではなかったはずだ。そしてぼく自らが関東でのサポーターを探してみようとしなければなかったことだ。そう思うとこんなに弱くて情けないサンフレッチェというクラブが不思議なものに思えてくるのだった。
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